2013年1月29日火曜日

回転するパイプを通る物体に加わる力

「高校物理の発想の基本」
「運動ベクトルに、そのベクトルの方向に垂直なベクトルを加え続けると、
運動ベクトルの方向が変わるが、運動ベクトルの大きさは変わらない」という定理があります。

そして「運動ベクトルの方向に垂直なベクトルを加え続ける」ということは、運動方向に垂直な力を加えるということです。

この定理は、物理の問題で出題されます。

 この定理の1つの観点は、遠心力です。遠心力は高校物理で教わります。
 この定理のもう1つの観点はコリオリの力です。コリオリの力は高校物理で教えません。しかし、遠心力の背後にこの定理がある事を知ってもらいたいので物理の問題で出題されることがあります。

 コリオリの力の計算は間違えやすい問題ですコリオリの力を計算する例として、以下問題を解きます

【問題】
 上図のように、角速度ωで回転するパイプの中で、圧縮空気で質量Mの物体を加速して、そのパイプの回転の中心点の位置を速度vで通過させます。物体はパイプの内径とほぼ同じ太さの弾丸とします。また、パイプの内壁面には摩擦が無いものとします。そのとき、物体Mが、回転の中心点の位置にある際に、パイプの内壁面から受ける力Fを計算しなさい。

【解答】
 上図のように、物体Mは摩擦の無い壁面からは、その壁面に垂直な方向にしか力が加わりません。
(また、上図で注意する点は、パイプの中を進む物体の速度ベクトルは、回転の中止から遠ざかる方向の成分のほかに、それに垂直な方向に、回転するパイプの各位置が進む回転の速度と同じ大きさの速度の成分を持つことです)


(回転座標系で観察しても、速度ベクトルに垂直な壁からの力の方向は静止座標系の場合と同じ方向を向きます)
 回転座標系で物体の面に垂直方向に加わる力は、静止座標系でも同じ方向に同じ力が加わります。ただし、速度については、回転座標系で観察すると、静止座標系とは速度が異なります。
 回転座標系で見る場合は、壁面に垂直方向に力が加わるということは、物体Mに、速度ベクトルに垂直方向に力が加わることです。それにより、物体の速度ベクトルの方向が変わり得ますが、パイプの中を進む限り、回転座標系で観察する場合は、速度ベクトルの方向は変わりません。この現象を解釈すると、別のところから物体の速度ベクトルの方向を変えようとする力(コリオリの力)が物体Mに加わっていて、その力を壁面から垂直方向に加えた力が打ち消していると解釈できます。

(物体の速度ベクトルに垂直方向に力が加わる場合に速度の大きさが変わらない理由)
 速度ベクトルに垂直方向に力を加えて、微少時間dsあたりに速度ベクトルvの方向が微少な角度ω・ds=θのオーダーで変わる場合に、速度ベクトルの変化量は、多くてもθ程度の微少量しか変わりません。
 微少な角度θを小さくし、その影響を1/θ倍すれば、速度ベクトルの方向の変化は微小でなくなります。しかし、その場合でも、速度ベクトルの大きさはθ程度の微少量しか変わり得ません。
 そのため、結局、角度θを微少にした極限で考えると、速度ベクトルの大きさは変わらないことがわかります。

(回転の中心部分において速度ベクトルの方向を変える力の計算)
 速度ベクトルは、
(1)回転によるパイプの方向転換による速度の変化と、
(2)物体が運動して回転中心から離れた位置に移動することにより、回転座標系の座標点の回転速度が加わることによる速度の変化、
とで、速度が変わります。


 それにより速度が変わる物体の加速度は、2vωです。
そのため、力F=2Mvωが、速度ベクトルvに垂直方向に加わります。
 こうして、物体Mが、壁面から、その進行方向に垂直な方向の力(2Mvω)を受けて、速度ベクトルの方向を変え続けます。
 その力Fは、上式のように2Mvωで与えられ、速度ベクトルの方向を変化させ続けます。

 なお、回転の中心点の近くでは、物体Mは、回転の中心に向かう方向に対して垂直な方向の速度の成分が0ですので、遠心力は働きません。

(物体を更に加速する力はどこから来るか)
 物体Mは、パイプの中を運動しながら、パイプの中心のまわりに回転させられますから、回転座標系で観察すると、遠心力が加わり、速度を増します。
 この現象を静止座標系で観察すると、物体Mは、パイプの軸方向とは異なる方向の速度ベクトルを持っています。その速度ベクトルに対して、パイプの軸に垂直方向に力を加えます。その加えた力は速度ベクトルに垂直では無いので、速度ベクトルを大きくし、物体が加速します。

(コリオリの力)
 ここで、コリオリの力を説明します。パイプ及び物体Mと一緒に回転する観察者から見ると、物体Mはパイプの中で、パイプの方向に向けて真っ直ぐに運動させたのに、その物体Mがその真っ直ぐな軌道からずれようとするので、パイプ中を真っ直ぐに進ませるためには、絶えずパイプの壁面から力を加えてやらなければならないのです。
 これは、物体Mに真っ直ぐな方向から外れさせる力(コリオリの力)が働いている、と解釈できます。

 なお、コリオリの力と遠心力は、物体の運動速度の方向に垂直な方向に(みかけ上)加わる力の、別のあらわれです。
 遠心力は、回転座標系で観察すると静止して見える物体に加わるみかけ上の力です。
 コリオリの力は、回転座標系で観察すると運動しているように見える物体に、遠心力以外に加わるみかけ上の力です。
コリオリの力は、運動方向に垂直な方向に加わるみかけの力で、それは、速度と回転の角速度に比例する、遠心力の2倍の大きさで、また、どの方向の運動に対しても同じ大きさの力が加わります。

(遠心力の大きさの式のMvωにおける記号vは、回転中心のまわりを回転して(遠心力を求める)所定の物体が静止しているように見える回転座標系の、座標点の回転速度。コリオリの力の大きさの式の2Mvωにおける記号vは、座標点ではなく、その回転座標系で見て、運動しているように見える物体の運動速度です。)

 静止座標系で同じ大きさの速度でも、速度の方向が異なれば、回転座標系で観察すれば、速度の大きさが異なって見えます。
 例えば、回転座標系の座標点の回転速度と同じ速度で進む物体は、回転座標系では、静止していると観察されます。
 また、静止座標系では静止している物体は、回転座標系では、回転座標系のその物体の位置の座標点の回転速度と逆方向にその回転速度で運動する物体であると観察されます。そして、その物体には、遠心力と、その(みかけの)速度に応じたコリオリの力が働き、コリオリの力が遠心力の2倍で遠心力と逆な方向に加わるので、その合計は求心力になります。
 回転座標系で、座標点の回転速度と逆方向にその回転速度で運動する物体には、回転中心に向かう(みかけの)向心力が働くように見えるので、その物体(静止座標系で静止している物体)は、回転座標系では、絶えず運動速度の方向を変えて、回転座標系の回転の中心を中心とする等速円運動をします。

 コリオリの力と遠心力を加えて考えれば、回転座標系でも、静止座標系と同じように、力と運動の関係を考えられるようになります。コリオリの力まで考えることで、回転座標系の力と運動の関係が矛盾なく完全に理解できるようになります。

【リンク】
「高校物理の目次」

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