2022年11月9日水曜日

「場の古典論」マックスウェルの方程式の第2の組

電磁場のラグランジュアン
後ろのページは無し


【場の古典論】
【第4章】場の方程式
《第30節》マックスウェルの方程式の第2の組
 最小作用の原理を用いて電磁場の方程式を求めるには、電荷を持つ粒子の運動は与えられたものと仮定し、電磁場だけを、つまり、電磁ポテンシャルAi だけを変化させなければならない。他方、運動方程式を求めるためには、電磁場を与えらえたものとして、粒子の軌跡を変化させた。
したがって、以下の作用積分(粒子がn個あり、粒子毎に異なる電荷がある)

の第1項のmcdsはゼロであり、第2項ではAidxi のdxi を変化させてはならない。このようにして、最小作用の原理を上記の式に適用する。
(なお、上記の式では表示の簡単化のために、n個の粒子の各世界点の4元ベクトルxi に付けるべき粒子番号の添え字nを省略している)

 「場の古典論」では、作用積分の領域の時間的境界面に、場の4元ポテンシャルAiを固定している。最小作用の原理を適用するイメージとして、下図のx,y,z,tの4次元空間(z軸は図示しない)内の粒子1と粒子2と、電磁場の4元ポテンシャルAi とを考える。

  この4次元空間の時間軸方向の大きさは、時間軸方向での最初の時刻と最後の時刻との間の時間Δtの大きさを持つ。この4次元空間の3次元空間座標軸方向の大きさは、時間軸方向の大きさΔtの光速度 c 倍のcΔtよりも十分に大きく、ほぼ無限遠に至るまで大きくする。電磁場は光速度で伝わるので、電荷の存在する領域から光速度で達する領域よりも外の領域には場の4元ポテンシャルが存在しない。すなわち、4次元空間の3次元空間座標軸方向の十分に遠方の端では場の4元ポテンシャルAi が存在しない。そのような4次元的な直方体の領域を考える。
 その4次元的な直方体の時間軸方向での4次元的な境界面(与えられた最初の時刻での3次元空間と、Δt後の最後の時刻での3次元空間)に、粒子の世界点a1,b1,a2,b2が固定されている。また、電磁場の4元ポテンシャルAi が固定されている。  
 粒子1について世界点a1から世界点b1まで作用積分し、粒子2について世界点a2から世界点b2まで作用積分する。あらゆる粒子について、同様に作用積分する。電磁場の4元ポテンシャルAiを微分して電磁場テンソルFik を計算して、それを使って電磁場のスカラーを求める。そして、上図の4次元的な直方体内の電磁場のスカラーを積分して電磁場の作用積分を求める。
 それらの作用積分の総体の値が最小になるように、粒子1の軌跡と粒子2の軌跡と、電磁場の4元ポテンシャルAiの各時刻と各位置における値を定める。

 作用積分SおよびラグランジュアンLをあらわす式を、電磁ポテンシャルAi とその微分との関数で作った。その作用積分Sの変分δSが以下の式で計算できる。なお、以下の式では、表示を簡単化するため、n個の粒子毎の電荷を表す記号eに付けるべき粒子番号の添え字nを省略してあらわす。またn個の粒子の世界点の4元ベクトルxi に付けるべき粒子番号の添え字nを省略してあらわす。

次に、第2項の添え字のiとkを入れ替える。

さらに、第2項のFkiを-Fikでおきかえる。

次に、第2の積分を部分積分する。 つまりガウスの定理を適用する。

この式で、ガウスの定理で面積積分した第2項については、4次元的直方体の積分の限界である4次元的境界面での値を入れなければならない。

先ず、第2項での4次元的境界面のうち、3次元座標の積分の限界である、ほぼ無限遠方の境界面の位置では、電磁場はゼロである。次に、第2項での4次元的境界面のうち、時間方向の積分の限界の境界面、すなわち、与えられた最初の時刻の3次元空間と最後の時刻の3次元空間においては、電磁場の4元ポテンシャルAi がその4次元的境界面(3次元空間)に固定されている。そのため、その時間方向の4次元的境界面(3次元空間)では、Aiの変分δAi がゼロである。
その結果、第2項が消えて以下の式になる。

ここで、この式の第1項を、第28節で求めた電流密度ベクトルを用いた以下の式におきかえる。

この電流密度ベクトルは以下の式であらわされる。

作用積分Sの変分δSは以下の式に整理できる。

最小作用の原理による変分δAi は任意であるから、δAi の係数をゼロに等しいとおかなければならない:

添え字i が1から4の4つの方程式が、4次元形式にあらわされたマックスウェルの方程式の第2の組である。それらを3次元形式に表わそう。i=1の第1式は

この式は、続くi=2, i=3 の2つの式と合わせて1つのベクトル方程式に書くことができる。

最後に、i=0 の第4の方程式は

になる。
 これらのベクトル表示で書かれた方程式は、マックスウェルの方程式の第2の組である。
 以上のように電流密度分布と電磁場テンソルの成分が関係付けられたのは、作用積分の項に、電磁場の存在に係る作用積分の項Sf を加えたことで、最小作用の原理から、電磁場自身が生成される原因を定める方程式を導出することができた。そして、その方程式は、電磁場が電流密度あるいは電荷によって生成されるということをあらわしている。
 電荷が、先行して存在する電磁場の影響を受ける作用があれば、電磁場自身も独立な実体であるとする(作用積分の項Sfを加える)ならば、電荷から逆に、電磁場が生み出されるという反作用の解(マックスウェルの方程式の第2の組)が得られた。
 このようにして、電場や磁場は、電流密度ベクトル(電流密度あるいは電荷)によって生じることがわかった。
 特に、注意すべき事は、電場の時間微分で表されている電束電流もまた、(電荷)電流密度ベクトルによって生じることである。

《当ブログの意見》
 最後に、この最小作用の原理から導きだされた方程式の解釈をもう1つ追加する。この解の方程式は、電流密度ベクトルが電磁場テンソルの成分(電磁場)を生じる解釈の他に、逆に、電磁場が電荷を生成すると解釈することができる。その解、すなわち、電磁場が電荷を生じる(電荷の対生成)顕わな解を得るためには、電磁場のラグランジュアンに新たな項を追加する必要があると考える。

【リンク】
pdf 古典力学 (解析力学)
東京大学数理物理学班「古典力学」
「高校物理の目次」


2022年11月7日月曜日

「場の古典論」電磁場のラグランジュアン

電磁場テンソル
マックスウェルの方程式の第2の組


【場の古典論】
【第4章】場の方程式
《第27節》電磁場の作用関数
 与えられた電磁場のなかで運動する粒子に対する作用積分は、自由粒子の作用の項と、粒子の電磁場との相互作用の項との2つの部分からなっていた。次に、電磁場の存在に係る作用積分の項、すなわち、電磁場を生み出す源の方程式を導き出すための作用積分の項を加える。
 自由粒子の作用の項と、粒子の電磁場との相互作用の項との2つの部分からなる作用積分は、以下の式であらわされた。

 この作用積分の項は、粒子毎に設けられ、複数の粒子が存在する場合には、これらの項が複数存在する。
 次に、これらの作用積分の項に、電磁場の存在に係る作用積分の項Sf を加える。その項Sf は、電磁場それ自身の性質のみに依存する、粒子に関係しない作用積分の部分である。この作用積分の項Sf は、電磁場自身を決定する方程式を見いだそうというときには不可欠な項である。作用積分の項Sf はローレンツ変換によって不変なスカラーでなければならず、したがって、あるスカラー量の積分でなければならない。
 電磁場に対する、この新たな作用積分の項Sf の被積分関数のスカラー量の形を決定するために、電磁場の非常に重要なつぎの性質から出発しよう。実験が示すように、電磁場はいわゆる重ね合わせの原理を満足する。この原理の内容は、『1つの粒子の電荷がある電磁場をつくり、他の粒子の電荷が第2の電磁場を作るならば、2つの粒子がいっしょに作る電磁場は、各粒子が個々に作る電磁場を単合成したものである。』 という命題であらわされる。このことは、各点の電磁場の強さは、その点での個々の電磁場のベクトルの和に等しいことを意味する。
 電磁場の方程式の任意の解は、自然に存在することのできる電磁場を与える。重ね合わせの原理によると、任意のそのような電磁場の和もまた、自然に存在しうる電磁場でなければならず、電磁場の方程式を満足しなければならない。
 作用積分の被積分関数であるスカラー量のラグランジュアンLを微分した形でラグランジュ方程式が計算される。そのラグランジュ方程式において電磁場が記載されることになるであろう。その微分した形のラグランジュ方程式の電磁場の表記が、電磁場が重ね合わせられるように、1次の電磁場であらわされるであろう。ラグランジュ方程式では作用積分Sf が微分されることで電磁場の表記の次数が1だけ減ずる。そのため、作用積分Sf の被積分関数には電磁場について2次の表式のスカラー量がこなければならない。
 この作用積分Sf の被積分関数のスカラー量の表式に電磁ポテンシャルAi が入ることはできない。なぜなら、電磁場ポテンシャルAi は一義的にきまらないからである。したがって、作用積分Sf は電磁場テンソルFik のある2次の関数のスカラー量の積分でなければならない。
 電磁場テンソルFik から作ることのできる、擬スカラーでない2次のスカラー量はただ1つ存在する。それは、

この2つの不変量のうち、擬スカラーでは無い、第1行の式であらわされるスカラー量FikFik である。
 こうして、作用積分Sf は以下の式の形をもたなければならない。

ここで、積分は、3次元空間全体と2つの与えられた時刻のあいだの時間にわたってとる。aはある定数である。被積分関数にスカラー量FikFik=2(H2-E2) がくる。ここで、電場Eは以下の式であらわされる。

この式のように、電場をあらわす式には、4元ポテンシャルAi の時間微分を含むが、作用積分Sf の被積分関数のなかでは(∂Ai/∂t)2 には正の値が掛け合わされなければならない、(したがってE2 には正の値が掛け合わされなければならない)ことがたやすくわかる。なぜなら、仮にSf のなかの(∂Ai/∂t)2 に掛け合わされる値が負だとすると、(考えている時間間隔における)電場ポテンシャルAi の時間的変化が十分急激ならば、つねに(∂Ai/∂t)2 の項が任意に大きくなることができ、したがって、Sf を任意に大きな絶対値を持つ負の量にすることができるからである。そうなれば、Sf は最小作用の原理から要求されている極小値をもつことができなくなる不都合を生じる。したがって、係数aは負でなければならない。
 aの値は電磁場の測定に用いる単位のとり方に依存する。aの値および電磁場の測定の単位を定めてしまったあとでは、他のすべての電磁的な量の測定に対する単位はきまってしまうということに注意しよう。
 すなわち、このaの値の大小によって、電磁場の発生し易さが決まる。次のページの、30節の解説で説明するように、ある大きさの電流や電荷によって、どれくらいの大きさの電磁場が作り出されるかが、このaの値の大小によって定まることになる。
 以下では、われわれはいわゆるガウスの単位系を用いることにする。この系では、係数aはディメンジョンなしの量で-1/(16π)に等しい。
 したがって、電磁場に対する作用積分Sf は以下の式になる。

よって、電磁場に対するラグランジュアンLf は以下の式になる。

よって、電磁場に対するラグランジュアンの項Lf を加えたラグランジュアンLは以下の式になる。

作用積分Sは以下の式になる。

 最小作用の原理を適用するイメージとして、下図のx,y,z,tの4次元空間(z軸は図示しない)に粒子1と粒子2と、電磁場の4元ポテンシャルAi がある場合を考える。「場の古典論」では、この4次元空間は、3次元の空間座標方向での大きさを、時間方向での最初の時刻と最後の時刻の間の時間ΔTの光速度 c 倍のcΔTよりも十分に大きくし、その端の遠方では場の4元ポテンシャルAi が存在しない遠方(ほぼ無限遠)まで広げた4次元空間を考える。

上図のような4次元的な直方体の領域のイメージである。その4次元的な直方体の4次元的な境界面のうち、時間方向での4次元的な境界面(与えられた最初の時刻での3次元空間と、最後の時刻での3次元空間)に、粒子の世界点a1,b1,a2,b2が固定されている。また、電磁場の4元ポテンシャルAi が固定されている。
 粒子1について世界点a1から世界点b1まで作用積分し、粒子2について世界点a2から世界点b2まで作用積分する。あらゆる粒子について、同様に作用積分する。電磁場の4元ポテンシャルAiを微分して電磁場テンソルFik を計算して電磁場のスカラーを求める。そして、上図の4次元的な直方体内の電磁場のスカラーを積分して電磁場の作用積分を求める。
 それらの作用積分の総体の値が最小になるように、粒子1の軌跡と粒子2の軌跡と、電磁場の4元ポテンシャルAiの各時刻と各位置における値を定める。

【リンク】
pdf 古典力学 (解析力学)
東京大学数理物理学班「古典力学」
「高校物理の目次」


2022年11月6日日曜日

「場の古典論」電磁場テンソル

場の4元ポテンシャル
電磁場のラグランジュアン


ページ内リンク
▷運動する電荷のまわりの電界
▷(電荷が増減して見える?)

【場の古典論】
【第3章】場のなかの電荷
《第23節》電磁場テンソル
 この節では、以下の、4次元的な形に書かれた作用積分:

から直接に、電磁場のなかの粒子の運動方程式を導く。
この作用積分に最小作用の原理を適用する。 

これに、以下の、ローレンツ変換に対して不変なスカラーの微分の式を適用する。

この式を使って上式を以下のように変形する。

ここで、第1項に以下の式を代入する。

uiは4元速度の成分である。

そして、被積分関数のなかの項を部分積分すると以下の式になる。

ここで、変分では両端の値がが固定されていて変わらないことを使って式を変形した。さらに、

を使う。

さらに、第3項の添え字のi とk を入れ替える。

δⅹiがどのように変わっても被積分関数が0にならなければならない。そのため以下の式が成り立つ。

そこで、

という記号を導入する。テンソルFikは、ローレンツ変換によって4元ベクトルの積(内積ではない)のように変換される4元テンソルである。
1つずつ計算していくと、以下のように計算できる。


4元テンソルFikの計算結果をまとめると、以下の行列になる。

この4元テンソルは電磁場テンソルと呼ばれる。それを使うと上記の運動方程式は以下の式になる。

この式の添え字 i が0から3の4つの方程式が電磁場の中の電荷の4元的な運動方程式である。
この式に、第9節で以下の式で与えられた力fの式を適用して係数だけ変えれば粒子に働く力fが計算できる。



《第24節》電磁場のローレンツ変換
 4元テンソルは、ローレンツ変換によって、動径4元ベクトルの積のように変換される。そのため、慣性基準系の静止系K(ct,x,y,z)とそれに対してx軸方向へ速度vで運動している慣性基準系K'(ct',x',y',z')の間では、電磁場テンソルの各成分が以下のようにローレンツ変換される。

この電磁場のローレンツ変換が分かったことで、粒子が電磁場から受ける力がローレンツ変換によってどのように変わるかが精密にわかるようになった。

《運動する電荷のまわりの電界》
 この電磁場のローレンツ変換によって、静止系Kにおいて静止している電荷qの時刻t=0の世界点A(0,y,0)と世界点B(x,0,0)における電磁場は、速度vで運動する慣性基準系K’では以下の図のように変換される。すなわち、世界点Aと世界点B(慣性基準系K’では静止系Kの場合よりも原点からの距離が短くなる)では、下図の強さの電磁場にローレンツ変換されて観測される。

(上図の電束の形は電荷が一定速度で運動する場合の形である。電荷の速度ベクトルが絶えず変わる場合は電束の形が上図とは異なると思う)。

(物理的意味を考える:電荷が増減して見える?)
 静止系Kで正と負の電荷が回転してい粒子対(電荷の総量が0)を考える。その粒子対は、慣性基準系K’では、下図の右から左の順に推移して回転する。

 慣性基準系K’で、その粒子対(電荷の総量が0)をある方向から観測すると、その観測点に至る各粒子からの電束の形が、上図の電束の形のように、粒子毎に異なって見えると考える。そうなると、その観測点に至る各粒子の電束が互いに打ち消されない。その結果、その観測点では、その電荷の対が、回転に伴って、(0ではない)電荷を増減するように見えるのではないか?

《第25節》場の不変量
 25節では、電磁場テンソルで作られる以下の2つの量が、ローレンツ変換で不変であり、場の不変量であることが示されている。

この計算に利用する行列
εiklm は、エディントンのイプシロンと呼ばれる。
(正しくは、擬テンソルと呼ばれる)
この行列の添え字が同じ数でない場合の、

ε0123=1,
ε1023=-1
であり、添え字が同じ数になる、
ε1123ε2230=0
である。
(ただし、添え字の上付きテンソルと下付きテンソルは符号が異なり:

である)
  この擬テンソルを使ってあらわした2つ目の場の不変量は擬スカラーである。
《擬スカラー》
 擬スカラー とは、座標系の取り方を右手系⇔左手系と変えると,その符号を変えるスカラーのことである。


【リンク】
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