2022年11月1日火曜日

相対性原理を基礎に据えたランダウ・リフシッツの「力学」から「場の古典論」最小作用の原理

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  一般運動量

《はじめに》
 このシリーズでは、相対性理論を基礎に据えたランダウ・リフシッツの「力学」から「場の古典論」までを、最小作用の原理を用いて電磁気学のマックスウェルの方程式を導き出すところまで解説したいと思います。
 この内容は、大学の理論物理学の中でも、かなり難しい部分になります。

(参考)ランダウの「力学」よりも分かり易く「力学」を説明している教科書として、ここをクリックした先にあるpdfファイルの教科書「力学:てこの原理からハミルトンの原理まで( 国場敦夫;東京大学大学院総合文化研究科)」が参考になると思います。

【教科書の紹介】
先ず、ランダウ・リフシッツの「力学」を紹介します。
力学(増訂第3版) (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程) 単行本
エリ・デ・ランダウ (著), イェ・エム・リフシッツ (著),
広重 徹 (翻訳), 水戸 巌 (翻訳)
 この本はここをクリックした先(アマゾン)で販売しています。


もくじ
初版まえがきから
第3版まえがき
第1章 運動方程式
第2章 保存法則
第3章 運動方程式の積分
第4章 粒子の衝突
第5章 微小振動
第6章 剛体の運動
第7章 正準方程式
索引
訳者あとがき

【第1章】運動方程式
《第1節》一般座標

 空間の座標は(X,Y,Z)という座標系であらわされる。また、極座標系で(r,θ,ψ)でも表せる、それ以外の、ありとあらゆる、等価な座標系がある。それらの座標系をひっくるめて「一般座標系」と呼ぶ。先ずは、その一般座標系と時間変数tでの「一般座標」と時間tで質点の位置を把握し、その質点の「一般座標」が時間tによってどのように変化するかを表現する力学の方程式の特徴を調べる。

《運動方程式の変形》のサイトから:
 ニュートンの運動方程式を変形していくと以下の関係が成り立つ。


この式が「オイラー・ラグランジュの方程式」である.
ここまでの変形過程をさかのぼれば、

の関係が成り立っている。

 以上がラグランジュ方程式の求め方の簡易版である.少し考えれば分かるように,上で定義したラグランジアンLは万能ではない.もともと保存力の場合だけ考えて作ったわけだし,ローレンツ力のように力が速度の関数になっている場合についても考慮に入っていない.
 そういう場合にもラグランジュ方程式が正しく成り立つためには,別の形式のラグランジアンを作ってやらなければならない.それについては後でゆっくり考えていこう.
L=T-Vなどという定義はごく限られた場合だけの便宜的なものなのである.

《ラグランジュ方程式の利点》のサイト:

このラグランジュ方程式を、極座標系(r,θ)で表してみると、

になり、式の形が変わらない。
・・・
 初めにやった具体的な例ではデカルト座標から極座標への変換を示したわけだが,どんな座標系に変換しようともラグランジュ方程式は形を変えることがないことが言えたのである.

《循環座標》「力学」の14節にある。
 極座標でラグランジアンをあらわすと、ポテンシャルが角度θに依存しない場合は、ラグランジアンには座標変数θが含まれない。ラグランジアンに含まれない特定の座標変数を循環座標と呼ぶ。


 本当はラグランジアンL自体は座標変換によってひどく形が変わっているのだが,それを相変わらず L という記号で表す事によってあたかも何も変わっていないかのように見せかけているという点が重要なのだ.座標変換によって形が変わってしまう部分をラグランジアンだけに押し付けるのに成功している.

《抽象化への準備》のサイト:
 ラグランジュ形式を使えば,デカルト座標をだろうが,極座標だろうが,他のどんな座標系であろうが,方程式の形が変わらない。そのため、座標系を一般化して、ラグランジュ形式とセットにして力学系を解析することができる。

《第2節》最小作用の原理
 力学の本質は最小作用(ハミルトンの原理)の原理に帰着する。最小作用の原理(ハミルトンの原理)を、以下で説明する。
《物理法則の形式》のサイトから:
 物理学の法則は幾つかの形式に分類される.
 一つは「微分形式」と呼ばれるものであり,ある瞬間の状態からスタートして微小な時間経過の後に状態がどのように変化するかを記述するやり方である.あるいは,ある一点の状態から微小な距離だけ離れたところでは状態がどのように変化するか,というのを記述する場合もそうである.ニュートンの運動方程式や,電磁気のマクスウェル方程式など,多くの法則がこの形式で書かれている.

 微分形式で書かれた法則を使う場合,その積み重ねを適用することで全体を把握することになる.微分方程式を解くことで質点の軌道を表す式を求めたりするわけだ.

 この他に「積分形式」で法則を記述する方法がある.これは部分にはこだわらずに,全体として見た場合にどんなことが成り立っているかを書き下すやり方である.エネルギー保存則や,電磁気学に出てくる積分形のガウスの法則などがこれに当たる.

 ところが,これらとは全く違う記述方法がある.この方法では,初めに初状態と終状態を指定しておく.すると,その途中でどのような経過を取りつつ終状態へ達するのかという道筋は無数に考えられそうなのだが,その中で実際に実現可能なもの,すなわち現実に自然が選ぶのはどういう条件を満たす経路だろうか,ということを考えるのである.その条件を指定することで法則を記述する.明らかに前の 2 つとは考え方が異なっている.

 その時使う方法が「変分原理」と呼ばれるものである。あるいは「最小作用の原理」(ハミルトンの原理)と呼ばれる。以下で、このハミルトンの原理を説明する。

 ラグランジュ方程式は,ある汎関数Sの停留条件になっている。このことを説明しよう。まず汎関数Sとは何か。数が与えられると数を返すのが関数だという言い方をするなら,汎関数Sは関数q(t)を与えられて数を返す。
 一般座標と、その時間微分と時間変数tを以下の記号であらわす。

一般座標qの数が多いのは、多数の質点の座標を表すためである。
 ラグランジアンLは、以下に表現する形の関数として特徴付けられる。 (これを与えられた力学系のラグランジアンと呼ぶ)。
このラグランジアンLの積分Sを考える

積分Sを作用(積分)と呼ぶ。
 時刻t1; t2 は固定しておく.本来 qi(t) はラグランジュ方程式と初期条件から決定されるべき関数であるが,一旦それを忘れて発想を逆転する。すなわち,関数qi(t) 達を勝手に与えるごとによって,積分Sはある数を返すので,qi(t) 達の汎関数S(qi) と見なせる。
 さて,本来力学的に実現するか否かを問題にせず,いろいろな軌道 qi(t) を考えたとき,付随する作用積分Sが停留値(極値) をとる条件を見出そう。
 ある軌道 (qi(t)) と、無限小だけずれた軌道(qi(t)+δqi(t)) での作用積分Sが等しくなること,つまり変分 δS = S(qi + δqi)-S(qi) が0 となる条件である。ただし,軌道の始点と終点は固定して考える.すなわち、δqi(t1) = δqi(t2) = 0 とする。
 変分条件:

の左辺は以下のように計算される。

ここで、

に注意して部分積分すると、

δqi(t1) = δqi(t2) = 0 により第1項は0である。第2項が任意の無限小変分δqi により0になる条件は、ラグランジュ方程式:

に他ならない。
《最小作用の原理》のサイトも参考になる

 以上の結果は次の様に要約される.始点と終点が指定されたとき,仮想的な軌道 qi(t) のなかで,実際に力学的に実現されるのは,作用積分Sが極値をとるものである.これを作用原理,変分原理,あるいはハミルトン(Hamilton) の原理という。
 すなわち、力学系は、時間が推移すると、作用積分Sを最小にするように推移する。
 そもそも汎関数Sの停留点とは,変数の取り方に依らない概念である。従ってハミルトンの原理を第1 原理に据えるならば,オイラー・ラグランジュ方程式が任意の一般化座標で通用する運動方程式であることは自然な帰結となる。
 運動を決定するという問題へのアプローチとして,ニュートンの運動方程式とハミルトンの原理はとても対照的である。前者は,力から加速度を知り,初期条件からの速度,位置の変化を刻々と積み上げて(積分して) 追跡しようとする局所的なアプローチである。一方後者は,全ての軌道を見わたし,作用積分Sの値の比較から真の軌道を見つけ出そうとする大域的な視点に立つ。

(補足) なお、更に、ラグランジアン密度Λを用いたハミルトンの原理(最小作用の原理)により、波動の方程式のラグランジュ方程式を求める方法が「場の古典論」32節に記載されている。

《ベルヌーイの問題提起》のサイト:
「質点がある点 A からスタートして滑らかな斜面を転がり落ちるとき,最短時間で別の点 B まで辿り着くには斜面をどのような形にしたら良いだろうか.」

この問題の解き方
 この斜面の曲線を関数f(x)で表す。そして、質点がこの斜面を転がり終えるのにかかる全時間を以下のように求める。すなわち、落下距離からエネルギー保存則を使って速度が求められる。そして、斜面の傾きからその水平速度が求められる。その水平速度から、水平方向の微小距離dxだけ進む間にかかる時間が求められる。これを水平方向の移動距離の全体に渡って積分する。

ただし簡単になるように下向きを正とし,スタート地点 A でのx座標を 0 としてある。

 凡人はここで行き詰まる.なぜって,時間tを最低にするような関数fの形を求めたいにもかかわらず何を変数にして最低値を求めてやればいいか分からないからである.ここで発想の飛躍が必要とされる.「変分法」と呼ばれるアイデアを使うのだ.

 それは次のような考え方をする.いきなりだが,答えとなる「最速降下線」が見つかったとする.当然のことだが,この軌道をほんの少しだけずらしたらそれは最速降下線ではなくなるだろう.どのようなずらし方をしてもそのようなことになる.

 そこで,軌道をずらした度合いを横軸にとって,軌道を駆け抜けるのにかかる時間tを縦軸にとってグラフにしてやると,正しい解を与えるところではこのグラフは最低値をとり,この点でのグラフの傾きは 0 になるわけだ.何だかだんだん解けそうな気がしてきただろう?

 この正しい軌道からのごく僅かのずれをδf(x)と表すことにしよう.これはxについての関数であって,スタート地点 A とゴール地点 B の条件を変えないようにδf(A)=δf(B)=0としておかなければならない.この軌道のわずかなずれδf(x)を「変分」と呼ぶ.

 そして軌道を表す関数f(x)がf(x)+δf(x)になった場合に,降下時間tがどれだけ変化するかを計算してやるのだ.先ほどのグラフの理屈を使えば,降下時間tが最短になる場合にはコースをごく僅かδfだけ動かしても降下時間の変化δtはδfに比較して 0 と見なせる程度にとどまるはずである!グラフの傾きが 0 だというのはそういう意味だ.このことを数式では次のように表す.

これが成り立つところが解になっているということである.普通の微分によく似た話だろう?

  この後の計算を分かりやすくするために先ほどの降下時間tの式の積分の中身をTと置くことにしよう.

質点の軌道がf(x)からf(x)+δf(x)に変化した時のtの変化δtを求めたい.そのためにはTの変化δTを求めて積分してやればいい.

このδTというのは次のような意味である.

関数Tの変数は関数fであってややこしく思えるかも知れないが,面倒くさく考える必要はない.関数f(x)というのはxが決まってしまえばただの数字である.よって普通の近似式のように展開してやって構わない.

ここまでの結果をまとめた以下の式の計算を進める。

降下時間tが最短になる場合には,微小変化δfがどんな形であろうともδt=0となっているはずなので,そのためには積分の中のカッコの中身が 0 である必要がある.つまり次のような式が成り立っていればいいことが分かる.

 この式は前に出てきた「オイラー・ラグランジュの方程式」と同じ形だ.ただし,ラグランジアンLの代わりにTになっているし,時間tの微分ではなくxの微分になっているし,座標q(t)ではなくf(x)になっている.そっくりそのまま,というわけではないが、変分の計算をすると、この形の式が出てくることがわかった。

 上記の計算と同様に、時間が推移するときの以下の作用積分を最小にするラグランジュアンLの満足する式を計算すると:

以下の、「オイラー・ラグランジュの方程式」が得られる。

すなわち、力学の運動方程式という物理法則が、ラグランジュアンLの積分(作用積分S)を最小にする最小作用の原理から導き出せる。ラグランジュアンLの範疇には、相対性原理を表すラグランジュアンLも含まれる。そのラグランジュアンLから導き出される運動方程式は相対性原理の運動方程式になる。

《ハミルトニアンとラグランジアンについて》のサイト:
 ラグランジュアンLは運動エネルギーTからポテンシャルエネルギーUを引き算した形で表される。実際の運動においてラグランジュアンLの作用積分Sが最小になるためには、ラグランジュアンLは、運動エネルギーTからポテンシャルエネルギーUを引き算した形にする必要があるからである。
《つじつま合わせ》のサイト:
 ポテンシャルを考慮に入れる
 次にポテンシャルがある場合の運動を考えてみよう.
質点は,ポテンシャルエネルギーの低い方へ動こうとする性質がある.これを実現するために,「ポテンシャルエネルギーの高い領域にいる時間が長いほどペナルティが大きい」というルールを課すのはどうだろうか?
 こうすれば質点は慌ててポテンシャルの高い領域を離れてポテンシャルの低い方へ移動することだろう.しかしこのやり方は間違っている.このルールの下では質点はなるべく早くポテンシャルの高いところを通り過ぎ,ポテンシャルの低いところでじっと留まっていた方が得になってしまうのである.現実の運動はそうではない.ポテンシャルの低いところでは質点は運動エネルギーを得て,高速で運動しているではないか.

 むしろ逆に,「ポテンシャルエネルギーの低い領域にいる時間が長いほどペナルティが大きい」というルールを課するべきなのである.いちばん簡単なのはL=T-Vとすることだ.こうしておけば,質点はなるべくポテンシャルエネルギーの高いところに留まろうとする。
ポテンシャルの低いところは微妙に早く駆け抜けた方が得策だ.

 以上がラグランジアンがL=T-Vで表されることの定性的な説明である.

《ラグランジアンの不定性》のサイト:
 等価ラグランジアン
 ラグランジアン全体を定数倍しても,そこから導かれる運動方程式の形は全く変わりない.(最終的にその定数で両辺を割れば同じ結果になるのだから.)だから厳密にL=T-Vでなければならないというわけでもなさそうだ.そう言われてみれば,ラグランジアンの形をもう少しだけ崩しても平気そうだ.例えば定数項を加えてみても運動方程式の形に影響はない.
 他にはあるだろうか?そしてどこまで崩しても大丈夫なのだろう.教科書によく出てくるやつは次のようなものだ.

ここでWというのは,任意の位置座標と時間の関数である.つまり,ただの定数を加えるだけでなく,こういう項を加えて作った新しいラグランジアンL'を使っても運動方程式に変化はないということだ.
 このように,ラグランジアンというのは一つの運動方程式に対して必ずしも一通りに定まるものではなく,ある程度の幅が許されているものであるようだ.
 互いに異なる形でありながら同じ運動方程式を作り出す複数のラグランジアンのことを「等価ラグランジアン」と呼ぶ。

 ラグランジアン候補は無数にある
 ところがだ,ラグランジアンに許されているのは「ある程度の幅」なんて狭いものじゃないようだ.等価ラグランジアンは上に書いたようなルールに従うものばかりではなく,他に幾らでも考えられるのである.
 理論上は必ずしもL=T-Vである必要はないということだ.
 では,わざわざL=T-Vという形を選ぶ理由というのはどこにあるのだろう?一つは,それが最もシンプルで分かりやすいということだ.
 こういうわけで,ラグランジアンの取り方は比較的自由であるにもかかわらず,L=T-Vだと考えておくのは,割りと人間的な意図があってのことなのである.
 逆の視点から見ると、ラグランジュアンLは、人間が自然法則を単純に解釈できるように、人間が単純に記述することを許す便利な関数だと言える。

 また、質点に働く力Fは、以下の式のようにポテンシャルエネルギーUの偏微分を逆符号にしてあらわされる。一方で、次のページで説明するように、ラグランジュ方程式で表す力Fは、ラグジュアンの偏微分で表す。その式の符号が逆であるため、ラグランジュアンLは運動エネルギーTからポテンシャルエネルギーUを引き算した式であらわす必要がある。


 既知の物理現象では、ラグランジュアンLが定まっていて、運動方程式もわかっている。一方で、未知の物理現象は、想定したラグランジュアンLから導き出される運動方程式が現象に一致することで、未知の物理現象のラグランジュアンLを発見することができる。

【リンク】
「高校物理の目次」


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