2023年2月4日土曜日

力学《47節》ハミルトン=ヤコービの方程式

【力学】
【第7章】正準方程式
《第47節》ハミルトン=ヤコービの方程式
 せっかく正準変換というものを手に入れたのだから,これを利用して,複雑な問題を一定の手続きで解く手法が作れないかを考えてみたい.

  少し考えれば分かることだが,正準変換によって作られた新しいハミルトニアンKが 0 となるような変換をしてやれば,変換後の新しい変数Qi,Piは,

を満たすのだったから,Q_iもP_iも定数だと言えることになる.いや,実はKは 0 でなくとも,Q_iやP_iを含まないような・・・つまりtのみの関数であれば同じことが言えるのだが,今の場合,話はなるべく簡単になった方がいいので,K=0となるような正準変換を探してやることにしよう.

  そのような正準変換を実現するような母関数Wを探すための良い方法,機械的な一定の手続きなんてものはあるだろうか.ハミルトニアンの変換H→Kは,

という式で表されたのだから,今の目的のためには

という関係を満たすSを見つけてやれば良さそうだ.ところがHというのは旧変数(q,p,t)で表された関数であり,一方,Sというのは,旧変数と新変数の関係を表す関数でなければならないから,S(q,p,t)という形で求まってもそれは意味がない.つまりこの式はこのままではそれほど役に立たない.

 せめて旧変数と新変数の間の変換が分かっていれば役に立つ式になりそうだが,そもそも今は,そういった変換が最も都合の良い形になるようにWを決めようとしているのだから,変換が最初に分かっているならばもはやSを探す必要はないではないか.本末転倒である.

 何とかならないか考えてみよう.H(q,p,t)のうち,とりあえず,pを排除してみよう.正準変換ではSの変数の選び方にもよるが,次のような関係が使える場合があるのだった.

この関係式をここで使うということは,Sは少なくともqiの関数だという縛りを置いたということだ.これを先ほどの関係式に当てはめてやると次のようになる.

要するに,旧ハミルトニアンHに含まれるpiを∂S/∂qiに置き換えたことで,全体としては関数S(q,t)についての偏微分方程式になったわけだ.これを「ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式」と呼ぶ.

 ところで,ここではSをS(q,t)と表しているが,母関数というのは旧変数と新変数の仲立ちをしなくてはならないので,この場合,S(q,Q,t)かS(q,P,t)という形のいずれかでなくてはならないのではなかっただろうか?その心配は要らない.今はK=0となる変換を探しているのであり,その変換が見つかった状況では,QiもPiも定数となるのだと最初の方で説明したではないか.だからここではそれらを変数として書くのを省略しているのである.

 後はこの偏微分方程式を解いてやれば,望んでいた変換が見つかるというわけか!

解くのは楽じゃない

 ところがこの方程式はそう簡単に解けるとは限らないのだ.1 階の偏微分方程式といっても色々あって,その中で,解くための一定の手続きが確立されている形のものを標準形と呼ぶ.今回の方程式はそのままでは標準形にはなっておらず,Hの形をある程度制限することで標準形になる場合もある.そんな状況だ.

 そうなると,この「ハミルトン・ヤコビの方程式」ってものは一体どれほどの価値があるのだろうか,という疑問が生じてくる.実はこの方程式は問題を解くために実用的に使われるというよりは,理論をまとめ,新しい視点を与えるという点で真に重要なのである.

 量子力学に触れたことがある人は,この方程式がシュレーディンガー方程式にどこか似ていると気付くことが出来るだろう.実はこの方程式がその元になっているのである.

【リンク】
pdf 古典力学 (解析力学)
東京大学数理物理学班「古典力学」
「高校物理の目次」

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