2023年2月4日土曜日

力学《46節》リウヴィルの定理

【力学】
【第7章】正準方程式
《第46節》リウヴィルの定理
 位相空間
 N個の粒子の運動状態を表す為には,個々の粒子の 3 つの位置座標と 3 つの運動量成分が分かれば良い.合計6N個のパラメータで表されるというわけだ.そこで,それらを座標軸とするような6N次元の直交座標を考えてみる.このような位置と運動量を一緒にしたような想像上の空間を「相空間」あるいは「位相空間」と呼ぶ.


 今回のような多粒子の位相空間を「Γ (ガンマ)空間」と呼び,1 粒子のみの位相空間を「μ(ミュー)空間」と呼ぶことがある.

 この Γ 空間(位相空間)の中の一点を指定すれば,全粒子の運動状態が完全に定まることになる.この点の事を「代表点」と呼ぶことにしよう.しかし我々が容器の中を見て,今のその内部状態が Γ 空間(位相空間)の中のどの点に相当するかを知る事なんか現実的には出来やしない.粒子の数があまりに多すぎるからだ.それでも想像で話をしよう.

 この位相空間の中に代表点を一つ置くと,その点はニュートン力学に従って,この位相空間内を移動して行くだろう.それは時々刻々と粒子群の内部状態が変化して行く事を意味している.

 等エネルギー面
 この Γ 空間(位相空間)の原点付近というのは,全ての粒子がほぼ静止しているという意味になる.外部とのエネルギーのやり取りがない孤立系を考えると,今まで活発に動いていた粒子の全てが勝手に止まってしまうということは起こらないだろう.そうなる為にはエネルギーを外部へと放り出す必要があるからだ.このように,場合によっては代表点が決して近寄ろうとしない領域というのがあるということだけは容易に分かる.

 今話したような全エネルギーの値に制限がある系では,代表点は制限された領域のみを通るのである.その移動の自由度は6N-1となっていることだろう.それは6N次元空間の中ではあたかも面のようなものであり,代表点はその面上を移動するのである.この面の事を「等エネルギー面」と呼ぶ.

 この Γ 空間(位相空間)の全体に,一様な密度で多数の代表点をばら撒いてやる.それぞれの代表点は初期条件に従ってそれぞれの動きを始めるだろう.ある程度時間が経った後,これらの代表点の存在密度はどのように変わっているだろうか.濃い部分,すなわち代表点が集まっている部分があれば,その状態になり易いという意味であり,薄い部分が出来ていれば,その状態は実現しにくいという事を意味している.

 実はこのようなことをした場合,密度はどこも常に一定のまま,少しも変化しないという事が示せるのである.これは等エネルギー面内に限らず,全体として成り立っている.これを「リウビユの定理」と呼ぶ.
以下の式(1)と式(2)がリウビユの定理である。ただし、式(1)は、粒子の位置座標qi が時間とともに変化する場合に、その位置座標qi に追従した位置における密度ρの時間変化をあらわす。

 この定理は、 Γ 空間の体積(位相空間の体積)が、正準変換での、異なる一般化座標と一般化運動量であらわしても変らない、という定理である。その証明が46節に書かれている。

団の占める体積は変化しない
 リウヴィルの定理についてもう少し説明しておこう.導かれたのは (1) 式,あるいは (2) 式である.これらは,「時間の経過に従って代表点の位置座標 (q1, …, q3N, p1,…,p3N) は変化するけれども,それに付き従って行けば,付いて行った先での密度ρは変化しない」という意味になっている.


 一様にばら撒かれた代表点の集団はバラバラに移動するけれども密度がどこでも変化しないという事は,まるで非圧縮性流体のように振舞っているということを意味している.

 Γ 空間(位相空間)内のある部分的な領域を考えると,その内部に含まれる代表点の集団はまるで雲か霧のように,形を変えながら引き伸ばされながら移動して行く事になる.それでもそれらが占める領域の合計の体積はずっと変化しないのである.

【リンク】
pdf 古典力学 (解析力学)
東京大学数理物理学班「古典力学」
「高校物理の目次」


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