2013年2月4日月曜日

磁場の中で回転する棒に発生する電圧

 
 
【問1】
下図のように、紙面に垂直で紙面から手前に向く磁場Hがあり、点Oに片端を固定した長さrの絶縁体棒(先端が点A)を点Oのまわりに紙面の平面中を左回り角速度ω(rad/s)の速度で回転するとき、棒の先端の点Aと点Oの間に電圧が発生する。このとき、棒の先端の点Aの、点Oに対する電圧を計算しなさい。

【解答】
 この問題を、固定した棒に対して、磁場が紙面の平面中を右回り角速度ω(rad/s)の速度で回転する問題として考える。その場合に、下図のように、磁場の運動により発生する誘導電場Eの方向をxにし、磁場Hの方向をy方向にし、磁場の運動速度Vの方向をz方向にあてはめることができる。

棒の根元の点Oの、先端の点Aに対する電圧は、棒の各部に発生する電場Eが棒の根元から先端の方向を向いているなら、電場Eのベクトルに根元側の方が電位が高いので、その電場Eの棒の長さ方向への積分で計算できる。それは、以下のように計算できる。
(答え)
 棒の先端の点Aの、点Oに対する電位は、-(棒の根元の点Oの、先端の点Aに対する電圧)なので、
-ωμH・r/2  (式1)
になる。

(注意)
 この電位は、棒といっしょに回転する運動座標系の空間の位置にあらわれる電位であって、点Oから半径方向の距離rの円周上のどの点でも、同じ電位です。

(注意2)
 ただし、磁場Hの存在する領域では、運動座標系が異なれば、誘導電場と、それを距離積分した電圧とが異なります。静止座標系で見ると、その静止座標系の空間のどの位置でも電位が0になります。

【問2】
 棒が金属棒の場合は、棒の先端の点Aの、点Oに対する電圧はどうなるか。

【解答】
 金属の棒は、その棒に電場が加わると、その金属の表面に平行な電場を打ち消す方向に電荷を移動させて電荷のかたよりを生じさせます。
 そうして電荷を棒の両端に集めます。それにより、棒に平行な電場が打ち消されるので、その棒の端から端まで電位が同じになります。
 その結果、棒が金属の場合は、棒の先端の点Aの、点Oに対する電圧は0です。

(注意)
 棒といっしょに運動する運動座標系の観測者から見ると、その座標系に対して相対運動をする磁場により空間に電場が発生します。その電場が金属棒に加わると、金属棒の電荷が移動して、式1で与えられていた電圧を打ち消して、金属棒の両端間の電圧が0になります。電場中でも、その金属が静止して見える観測者から見ると、金属のどの位置も電位が同じで、位置による電位差が無いように見えます。
 金属表面の電位が等電位になるのは、金属棒に電荷のかたよりを生じることで外部電場の影響を打ち消したからです。

【問3】
 下図のように、磁場H(紙面に垂直で紙面から手前に向く)が所定の存在領域にのみ一定の強度で存在する場合を考える。

 その磁場Hの存在する領域の境界線の位置の点Oに金属棒の根元のO点を設置する。金属棒の長さはrであり、その長さrの金属棒(先端が点A)を点Oのまわりに紙面の平面中を左回りに一定の角速度ω(rad/s)で回転させる。
 更に、その金属棒の先端のA点に、磁場Hの存在する領域では、O点を中心とする半径rの円弧を描く形の金属導線Lを接続して、その金属線Lの端を、磁場の無い領域の点Bまで引き出します。
 また、金属棒のO点の位置から磁場Hが無い領域を走行する金属線Nを接続してその端を、点Bの近くの点Cまで引き出します。
 この場合、点Bの点Cに対する電位はいくつか。

【解答】
 問2で、金属棒のA点とO点の電位が同じだったのは、A点とO点の間に加えられた電場と、A点とO点の間の電荷のかたよりにより生じた電場とが打ち消しあったから生じた現象でした。
 一方、その点Aに電気接続する金属線Lは磁場Hの存在領域では、磁場Hの運動方向に平行な方向にのみ走行するので、運動する磁場が生じる電場に垂直方向なので、その部分に電場が加わることがありません。
 その磁場Hの領域を出て磁場Hの存在しない領域を走行する部分には、そもそも電場が加わりません。
 金属線Nは、磁場の存在しない領域を走行するので、その部分に電場が加わることがありません。

 磁場Hの存在する空間には、運動する磁場Hが電場Eを生じていますが、その空間に置いた金属棒では、その金属棒上の異なる点の間に電圧があると、その電圧の差を打ち消すように金属棒の電荷が移動します。結局、金属棒上のあらゆる位置が等電位になり、金属棒上の異なる点の間には電圧があらわれません。
 すなわち、金属棒は、その根元の点Oに対して先端の点Aの電位が高くなるように電荷を分布させて、空間の電位分布を打ち消しています。
その金属棒の電位は、磁場Hの存在する領域では、O点からA点と金属線Lの、磁場Hの存在領域の境界線に至る位置まで0電位です。その金属棒と金属線の電位が0であるのは、磁場Hが存在する空間が発生させる電位(A点とO点の間に空間から加えられた電場により生じる電圧)を、金属棒と金属線Lに生じた電荷の分布によって打ち消しているからです。

 ところが、その金属線Lが、磁場Hの存在領域の外に出ると、空間から加えれていた電圧が0に変わります。磁場Hの存在領域では、金属の電荷の偏りにより生じていた電圧と、空間が生じる電圧がちょうど打ち消しあって0になっていたのに、磁場Hの存在領域の外に出ると、空間から加わる電圧が突然に0になります。
 すると、磁場Hの存在量領域の外に出た部分では、空間から加えられる電場が無いので、この導体系に、電荷の偏りによって生じた電圧のみがあらわれます。すなわち、A点とO点の間に加えられた電場を打ち消す電圧があらわれます。その後の金属の電位は、磁場Hの外で接続する金属部分が等しい電位になります。結局、磁場Hの存在領域の外のB点とC点の間には、A点とO点の間に空間から加えられた電圧を打ち消す大きさの電圧があらわれ、C点に対するB点の電位は、
(答え)
ωμH・r/2  (式2)
になります。

(注意)
 本問のように、磁場Hが運動することで空間に発生する電場Eは、磁場Hの存在領域のみに限られている局所性があります。
 そして、磁場Hが存在しない領域では空間が発生する電場Eがありません。
 その局所性のある電場Eは、静止電荷を組み合わせては作れません。
 そのため、磁場Hの存在領域から金属線が出たとたんに、金属線の電荷の偏りにより発生する電圧を打ち消す空間電圧がいきなり消え、その結果、金属線に電圧があらわれました。

 この誘導電場の持つ局所性が、本質的に重要です。


【リンク】
「高校物理の目次」

0 件のコメント:

コメントを投稿